銀行員との初対面をスタートとして、
はじめて銀行から事業資金の借入をするには何をすればいいのでしょうか?
これを、銀行の融資担当つまり金を貸す側の視点で説明していきます。
最初に申し上げます。
「サービス提供する企業=銀行」と「顧客=あなた」の関係の中で、融資借入申込みをする際に最も重要なこととは何なのでしょうか?
それは人として守るべき最低限のルール
「嘘はつかない・約束は守る」です。
陳腐な表現かも知れませんが、実はこれが秘訣です。銀行員の私が力説します。
また、銀行という業種には一種のいわば「クセ」とも言えるものがあります。
銀行や銀行員が好きなもの・嫌いなものを押さえて、融資申込みの参考にしていただけるよう、以下の項目に分けて説明していきます。
銀行への融資相談 銀行員との面談
銀行の融資審査は、おおむね次のような流れになっています。
スタート:融資の申込み
→ 銀行は「反社チェック」を行う
→「反社チェック」に問題がなければ、決算書など企業情報を入手
→ 決算書・企業情報等から「格付」を行い「債務者区分」を決定する
→ 格付けをベースに融資案件の内容そのものを精査し、融資の可否を判断する(融資条件の決定)
ゴール:融資を実行する
上のフローでは最初に「反社チェック」があります。
銀行の融資審査では、何をおいても最初に確認しなければならないのが「申込者が反社会的勢力ではないか?」を調べることです。これが反社チェックです。
銀行は反社会的勢力と取引してはいけません。銀行は融資も預金も含め一切の取引をしません。
反社チェックは融資申込みがあった際の入り口部分の必須項目です。従って必ず最初に行わなければはなりませんが、大前提でのチェック事項であり、融資審査そのものに入る前の話と言えます。
つまり、事前の下調べができない、いきなり来店してくるような相手は、そのことだけで既に銀行の第一印象があまり良いものとはなりません。ですから、まずは来店前にアポを取りましょう。
銀行は手持ちの情報で下調べをしたい
まずは「融資について相談したい」と銀行に電話をしてみましょう。
↓
銀行は「折り返し連絡いたします」と言うでしょう。
↓
そして、上に書いた「反社チェック」や、手持ちの情報ソースを使って「下調べ」をします。
↓
そして銀行から「では、いついつまでにご来店ください。そのときの持ち物は・・・」と電話が入れば、少なくとも第一関門は突破です。
銀行は皆さんが思っている以上に情報を持っています。
そうした手持ちの情報で、銀行はあらかたの下調べや、場合によっては「この相手に融資すべきか?」の審査までできてしまうのです。
また、いきなり「金を貸して欲しい」と窓口にくる人は、大抵資金繰りに相当困っている人や、常識の無い人。場合によっては「冷やかし」が多いことを銀行員は経験から知っています。
私も融資窓口でよく経験したのですが、お客様がアポなしで来店し「融資して欲しい」とご希望。
まだこちらが話し出す前に、おもむろに決算書3期分、印鑑証明などの書類をカウンターへ…
話をうかがったところ、実は他の銀行や信金で断られた後に来店されたとのこと。
当然というか、お断りさせていただきました。
※ちなみに、銀行では融資を断ることを「謝絶」などと表現します。銀行は融資を謝絶した先には、そのあともまず融資しませんのでご注意下さい。
そんな訳で、銀行員の立場では、いきなり来店の融資申込は歓迎できるものではありません。
銀行の手持ち情報は精度が高い
実務的には、法人であればその会社名、社長の個人名、個人事業主なら本人や保証人などを情報機関への照会等でチェックします。
また、融資申込人の会社の銀行口座が当該銀行にあれば、会社の所在地、設立年月日、業種など、当然銀行は知っています。
会社名(個人なら事業者名)がわかれば、情報機関にアクセスして、大まかな業況、経歴などを把握できる場合がけっこう高い確率であります。
こうした情報は、個人情報保護法でいう「書面による個人情報取り扱いの同意」を得なくても閲覧ができる情報です。
ですから、
「銀行へ来店の申込みをした」→「折り返し連絡が来た」と言うことは、
下調べの結果少なくとも銀行が前向きに話を聞くつもりがあると言うことなのです。
ただし、ここでひとつ言えることがあります。
折り返しの連絡が「ご来店ください」の場合の銀行の「温度感」のことです。
言葉はいろいろあるでしょうが、
「来て下さい」ということは言い換えれば「(銀行が)こちらから出向くほどの相手ではない」と見られているという面もあります。
もし「こちらから伺います」と言われたなら、期待度は高いと言えるでしょう。
銀行員に来てもらうメリットは他にもありますので、なるべく最初の連絡の時から「訪問して欲しいという希望」を伝えた方がベターです。
会社 事務所 仕事場を銀行員に見せる有益性
銀行員は「現場を見て判断しろ」と口酸っぱく教育されているので、自分が興味を持った相手のところには喜んで訪問します。
銀行に来店して写真を見せるより、あるいはHPを見せるよりも、銀行員に現場を見せることが、業況を把握してもらう一番の近道なのは言うまでもありません。
逆に言えば、銀行に見せられない・見られたら困るような社内・事務所・工場等では、当然ながら銀行から融資を受けることはできないと言うことになるのです。
銀行の審査内容 定量情報と定性情報
では銀行の融資審査とはいったいどのような内容なのでしょうか?
銀行が審査の際に使う二つの情報「定量情報」と「定性情報」を中心に実際の融資審査の基本を説明していきます。
定量情報とは?
データ化、集計、分析が可能な情報のことで、会社の決算書や銀行が行う「格付」などが当てはまります。
定性情報とは?
数値化出来ない情報のこと。銀行では「信用調」に代表される決算書などの数字では表せないその会社固有の情報のことを指します。
定量情報の代表格=格付
格付は企業の通信簿です。
銀行は取引先から過去3年分の決算書をもらい、数値を分析し、格付をします。
格付とは、銀行による取引先の通信簿であり、その点数のもとになっているのは決算書の数値です。これらがすなわち定量情報の中身というわけです。
決算書には載っていない長所=定性情報
現在の銀行における融資審査は、格付など定量情報偏重であることは否めません。
しかし、いざ会社が行き詰まった時こそ強みとなるのが定性情報なのです。
定性情報の代表格としては人脈です。社長の出身地、最終学歴から、独立する前の職歴などこれら全て人脈につながります。
人脈によりビジネスチャンスも広がりますし、ピンチの時の支援を期待できるかも知れません。
つまり、こうした人脈というような事柄は当然ながら決算書には載っていません。
まさに数値化出来ない情報=定性情報なのです。
定性情報のまとめ 信用調とは?
銀行は取引先毎に「信用調(シンヨウシラベ)」などと呼ぶ資料を作成します。
これは会社名、代表者名にはじまり、ここ最近時の業況・格付から仕入先、販売先、会社設立から今に至るまでの業歴、社長の経歴、果ては業界内の地位(全国何社中の何位等)、風評・噂に至るまでいろいろな情報が網羅されています。
それを見ればその会社のことが瞬時にわかるいわば取扱説明書です。
銀行はこの信用調を例えば融資審査の稟議書の資料とするなど重要視しています。
信用調はあなたの説明書 作るのは銀行員
信用調べを作るのはあなたと直に会っている銀行員です。
良いこと悪いこと含め一度記録されたら後々まで尾を引くことになります。
例えば「面談の約束をしていたのに遅れた」「アポイントを取っていたのにドタキャンされた」こういったことは信用調に「社長はややルーズな性格」と書かれたりします。
銀行員は長くて3年で転勤になりますし、銀行員の担当する取引先も結構な頻度で変わります。ですから信用調はそのまま引き継がれることが多く、一度でも信用調に「ルーズ」と書かれようものなら、それを払拭するのは容易ではないのです。
しかも、信用調は部外秘の極秘資料ですので。何が書かれているのかあなたは知ることが出来ません。
だからこそ銀行員に対しても、社会人として「嘘はつかない・約束は守る」ということが秘訣になるのです。
融資の条件決定 金利等
融資条件は全て銀行側が決める
銀行との融資取引では、金利などの条件は全て銀行が決めます。お客様であっても、あなたには何も決めることは出来ません。
そして、銀行が決める融資条件は格付によってほぼ決められています。
格付の実際の作業はかなり機械化されています。
決算書3期分の数値を入力→コンピュータが格付まで決定(会社を採点)します。
↓
その後、銀行員の再確認作業はありますが、ここ最近では省力化が進んでいます。
↓
例えば「売上が○千万円未満の先」などはコンピュータの格付のみで作業が完了。
↓
など簡素化されています。
銀行はこの格付を基礎にして融資取引の審査をしています。
また格付の結果から
① 取引方針:その会社に対する取り組み姿勢
② 融資商品:どのような融資を売り込むか?
③ 金利などの諸条件:格付によって細分化されている
といったように、融資に関する様々なことが格付を基準に決められているのです。
取引方針
格付の結果から例えば以下のように取り組み方を決めることです。
積極対応→ ガンガン売り込む
保全を重視→ 担保をとるなど「守り」重視
現状維持→ 毎月の返済で減った分の金額しか融資しない(折り返し融資ともいわれます)
取引解消・撤退→ 文字通り
融資商品
積極対応先であれば、破綻するの可能性が少ないのでプロパーで融資。
場合によっては無担保でもプロパーを貸すなどもあり得ます。
金利
格付を元にして細分化して決められています。
例えば「格付が○○なら、期間1年の借入は金利○%」とマトリックス表のように事細かに決められています。
条件交渉で少しでも有利に運ぶために
他の銀行で借りるつもりが無くても金利くらいは調べておく
条件を一方的に決めてくる態度をとっておきながら、銀行は意外と他行の動向を気にします。
なぜならあなたの取引を他行に肩代わりされると困るからです。
自分で金利を決めることが出来なくても「○○銀行はもう少し金利が安いのに」というのは意外と効果があります。
ただし、言い方やタイミングには充分注意が必要です。
力がつくまでは我慢
銀行にとって優良先になれば、あなたが黙っていても銀行の方から低金利など、有利な条件で提案をしてくるようになってきます。
なぜなら優良先を離したくないのはどの銀行も同じだからです。
あなたがこうした優良先になれるまでの間は、時には忍耐を持って銀行とうまく付き合って行きましょう。
条件が気に入らないからと言って、取引銀行をころころ変えるのは得策ではありません。
融資申込時の必要書類
融資申込みに必要な書類のメイン
公的証明:印鑑証明、住民票
決算書:通常は3期分
急に素っ気なくなったわけではありませんが、これまで説明してきましたとおり、
融資の申込みにおいては、審査の過程やあなたの人脈などが重要な要素なのです。
ですから、必要な書類をそろえる時には、すでに融資はほぼ決まっていると言えます。
公的証明や決算書の準備について、特に難しいことはありませんが、銀行員としてお伝えしたいことを、最後に添えさせていただきます。
受けの良い印鑑がある!?
会社の実印は素人がぱっと見では読めない書体(篆書体や吉相体など)が主流ですが、最近では「会社の実印がカタカナ表記」「個人の実印が三文判(のような簡単なもの)」などのケースも増えてきました。
しかしながら、銀行ではやはり実印は「実印っぽい」ものが好まれます。
ちなみに会社の場合
「〒 郵便番号」「電話番号」付きスタンプはNGです。担保の書類などにスタンプを押すときに困る場合があります。
(担保関係の書類は印鑑証明通りに押すものが多く「〒」は×)
銀行は、印鑑について今だに細かいところにこだわりを持ち続けているようです(笑)
銀行員が好きな決算書がある
銀行員は、格付作業などで多くの決算書を見ています。
決算書を検証して「償却不足」「仮払金、仮受金」やその他不明瞭な点を見つけた場合など、銀行で決算書の数値を修正します。
(これを「補正する」といいます)
ある程度経験値のある銀行員であれば、上記のような欠点ははすぐに見抜きます。
現在、銀行は決算書をもらう際に必ず税務署の収受印や電子申告の受信結果などを義務づけます。逆に言えば、こうした正規の決算書を出せない(出さない)会社と銀行は融資取引しません。
また、決算書は黒字なら何でも良いという訳ではありません。たとえ赤字でも会計原則に則ったしっかりした決算書であれば「銀行が好きな決算書」と言えるのです。
ですから税務署提出用と銀行提出用といった異なる二つの決算書などあってはいけません。「粉飾」「逆粉飾」は論外です。仮に発覚した場合、融資取引はもう望めません。
これらも経営上の嘘です。
銀行が最も嫌いなのは「嘘」なのであり、やはり「嘘はつかない・約束は守る」ということが何より大事だということをご理解いただけたかと思います。