2018年7月、金融庁から業務改善命令を受ける原因となった東日本銀行(本文では以降「同行」と表現します)の不適切融資と問題点は主に以下のとおりです。
①支店における不適切な融資
②顧客の利益を害する業務運営
③本部の牽制機能の欠如
④投資信託販売業務における虚偽報告
(上記は同行HP、金融庁HP等を参考としました)
今回は上記のうち特に①不適切な融資と、②顧客の利益を害する業務運営について説明していきます。
(ちなみに③本部の牽制機能の欠如とは、①②を含め支店に対する本部の牽制が無かったこと。④投資信託販売業務における虚偽報告とは、投資信託販売や顧客への事後対応について職員が虚偽の報告をしたものです。)
東日本銀行の不適切融資の概要
不適切融資の概要は、業務改善命令によると主に以下の内容となります。
①特定の副支店長が、支店の営業エリア内に実体のない当該融資先の営業所の登記を行わせ、支店長を欺き不適切な融資実行した
②上記以外の複数支店では、同行OB から紹介された融資先に対し、支店長が支店の営業エリア内に実体のない営業所の登記を行わせ、支店長専決権限により融資を実行した
③支店では、支店長以外の職員が不審な状況を看過しており、牽制機能が働いていない
④なお、上記と類似する不適切融資は過去にも発生しているが、当時の再発防止策での根本原因分析等が十分ではなく、今回も同様の不適切な融資が再発している
不適切融資の原因
こちらについても、業務改善命令の趣旨をまとめると以下のとおりです。
①もともと顧客本位の意識が乏しい企業文化だったが
②経営陣が新規取引獲得に偏重した営業姿勢としたために
③収益確保や OHR の低下を優先してしまい
④内部管理態勢の整備を十分に行ってこなかったことが根本原因である
報道では、横浜銀行を擁するコンコルディア・フィナンシャルグループとの合併において、横浜銀行に対抗するため、影響力を少しでも強めたいという同行経営陣の焦りが、結果的に過度なノルマを現場に押しつけた、と分析しています。
不適切融資の問題点
不適切融資の概要から問題点を端的にまとめると、以下の内容になります。
①支店のいうことを聞いてくれる相手に対して
②支店長や副支店長が、支店の営業エリア内に、実体のない営業所を登記させて
③本社にバレないように支店長権限で融資した
④支店では職員が気づいていたが見て見ぬふりをしていた
⑤こうした不適切融資は昔から同じ手口で行われてきた。
⑥昔も問題になり、再発防止策を作ったが不十分だったので、同じ手口の不適切融資が再発した
それぞれの問題点の詳細
①上記のように、過度なノルマが現場である支店に押しつけられた結果、支店はノルマを達成するために、不適切融資をしなければならない状況に追い込まれたわけです。
銀行が融資を押しつけたい場合、必然的にいうことを聞いてくれる相手を選ぶようになります。
これは資金を融資する銀行の強い立場を悪用したものです。こうした行為を『優越的地位の濫用(らんよう)』といい、銀行などの金融機関は厳に慎むべきものであり、内容によっては処罰の対象になる違反行為です。
②銀行の支店には、それぞれ営業エリアがあります。これはいわば支店のナワバリのようなもので、例えば「支店の近隣何キロ以内」とか「最寄り駅圏内」など範囲が細かく決められています。これは支店同士で顧客を奪い合いして、顧客にとって不便な支店と取引することのないようにといった顧客保護の観点からの取り決めです。そしてもう一つ、営業エリアを分けるのには理由があります。それはリスク面からです。
例えばある支店が、違う支店営業エリア内の顧客と取引しようとする場合、なぜ取引をするのか?という理由を説明した上で、本社に決裁を仰がなければなりません。
これは支店同士の不当な競争を防ぐのと同時に、不正を防ぐための措置なのです。
往々にして、銀行をだまして融資金を詐取しようという犯罪者は、自分の身近にある銀行は避け、離れたところにある銀行に行く傾向があります。地元だと顔見知りがいるなどの理由からいろいろ不都合だからなのです。
同行の不適切融資では支店長や副支店長が、支店の営業エリアに実体のない営業所を登記させています。なぜなら支店の営業エリア内であれば、支店長専決で融資ができる、つまり本社にバレないように不適切融資ができるからです。
顧客保護、リスク面から決められているのが支店の営業エリアです。
同行の不適切融資におけるこうした行為は、顧客保護を無視した全くの銀行本位、支店都合のみでおこなわれた不正行為といえます。
不適切融資が行われた背景と疑問点
③世間一般の会社組織や、私の勤務する銀行と照らし合わせると、ひとつ疑問に感じるのは、不適切融資は支店長専決でおこなわれたという部分です。
私の勤務する銀行では、たとえ支店長専決の融資であっても、本社がまったく関与しないなどあり得ません。
企業、組織において、命令やノルマは上から下へ、そして報告・連絡・相談は下から上へいくものと決まっています。社員の行動は中間管理職が全て管理しており、同様に副支店長→支店長→本社役員というように、上の人間は部下の行動を全て把握しているものです。特に銀行はそうでなければなりません。
ですから、私から見れば副支店長が支店長を欺くこと自体が信じられません。それは、そんなことをしてはいけない、という意味ではなく、(内部事情になるため詳しくはいえませんが)現在の銀行業務では部下が上司を欺くことなど、そもそもできないようなシステムになっているのです。銀行職員の個人的な不祥事が報道されますが、こうした内部牽制の仕組みにより悪事は必ず露見するようになっているのです。
同行の場合も、特定の副支店長などごく一部の人間が個人的におこなった防いであれば、銀行がこの個人を警察に通報したり損害賠償請求したりするはずです。こうした観点からも、同行の不適切融資は組織的なものだと感じています。
④職員が気づいていたが、見て見ぬふりをしていたという部分についても述べます。
もちろん、不正を見て見ぬふりするのは正しいことではありません。
しかしながら、同行の不正は上からの過度なノルマに端を発するものです。このようないわば異常な状態の銀行内で、果たして支店長の不正を部下が正すことができたのか疑問に思います。
もしかしたら、支店長の不正を本社に伝えても黙殺されていたのでは?悲しいことですが、正直そのようにさえ感じてしまいます。
⑤不適切融資は昔からおこなわれ、以前に問題になった際には再発防止策を策定した がまた再発した。これはつまり、同行で常套手段として長年使われてきた手口だということになります。
問題が発覚して一度は再発防止策を作っても、同じ手口を繰り返したわけです。
不適切融資は複数の支店、複数の支店長によっておこなわれたと報道されています。
これなどは先輩から、あるいは支店長同士のつながりで、実績を上げるための裏ワザ(もちろん不正な)がまさに悪しき伝統として受け継がれていた、とも考えられます。
⑥現在同行のHPには、不祥事についての記載は一切ありません。
もちろん心機一転新たにやり直す、というのであればいいでしょう。しかしながら、問題が発覚してからまだ半年も経っていません。同行の不祥事は不適切融資だけで無く、事項で説明する歩積両建預金などの重大な違反事象もあるのです。
コンコルディア・フィナンシャルグループのHPに遷移すれば、一連の不祥事について確認することはできますが、同行HPには業務改善計画も記載されていませんので、
再発防止については疑問を感じる部分でもあります。
東日本銀行の不適切融資対応への私見
HPには経営トップのメッセージとして、こう記されています。
『当行と共に歩んでいただける地域の皆さまと心のかよう「フェイス・トゥ・フェイス」の気持ちを大切にし、お客さまに満足いただける金融サービスを心がけてきました。』
『地域金融機関としてお客さま本位を徹底し、地域の皆さまに寄り添いながら信頼関係を深めていくことで、お客さまの課題解決や成長を全力でサポートしていきます。
そして、皆さまに愛され、選ばれ続ける金融グループをめざしてまいります。』
上記メッセージは業務改善命令が出されるより前の、2018年6月時点のもので、
現在も掲載されています。法令遵守や顧客本位の意識に乏しい企業文化と指摘された同行が、不祥事発覚以前と同じ内容のメッセージをHPに掲載しているのです。
不祥事の内容とメッセージを読み比べたとき、再発防止に向けた同行の取り組みに対して、一抹の不安を覚えてしまうのは私だけでしょうか?
不正な手数料と歩積・両建
不適切融資とあわせて、同行で問題となったのは『顧客の利益を害する業務運営』です。
これは具体的には
①融資実行時に、根拠が不明な手数料を受け取っていた
②歩積・両建をおこなっていた
というものです。
根拠が不明な手数料
まず手数料について説明します。これは顧客へのしっかりとした説明が無く、妥当性・必要性の不明な手数料徴収が約1千件、4億6千万円もあったというものです。この中には、地方自治体が手数料の徴収を禁止している公的な融資も含まれ、明らかな違反行為です。
手数料徴収は、それこそ手っ取り早く収益をあげることができます。これも、経営陣から押しつけられた、収益確保の過度なノルマ達成のために考えられた手口でしょう。
そして、その件数・金額から考えても組織ぐるみの行為だと考えられます。
融資の実行にあたって銀行から手数料を求められたら、まずほとんどの顧客が疑うことなく従ったでしょう。なぜなら顧客は、銀行がウソをつくとは考えませんから。
そして、もし手数料に疑問を感じたとしても、それを口に出すことはできたでしょうか?
手数料を払わないということは、融資を受けられないということです。疑問や不満を抱えたまま、やむにやまれず手数料を支払った顧客も少なくないはずです。
妥当性が無く、しかも禁止されている公的融資からも手数料を詐取したやり方は、まさに優越的地位を濫用した行為といえます。
そして、この優越的地位の濫用を最も象徴するのが、同行が歩積・両建預金をおこなっていたという点です。
歩積・両建(ぶづみ・りょうだて)
こちらは、別途、基礎知識的な解説がありますので、そちらのページ↓をお読みください。