手形貸付とは何か?証書貸付とどこが違うのか?どのような業種や資金使途で必要になるのか?などを、融資審査をする銀行員がわかりやすく説明していきます。
今後の事業資金調達の参考にして下さい。
手形貸付とは?
手形貸付は証書貸付や当座貸越と同じ銀行の事業資金融資の一つです。
証書貸付が借用金証書で契約するのに対し、手形貸付は銀行で用意した約束手形に債務者が署名する形式で融資します。
短期の借入目的で、業種では主に建設業や物販業などが良く利用しています。また最近のトレンドでは、不動産関連業種でも手形貸付融資が行われています。
(融資の期間、業種についての詳細は後述します)
なお、保有している受取手形を担保にして融資を受ける方法もあります。こちらは手形担保貸付と呼ばれますが、銀行での取扱はほとんどありません。
「手形貸付は銀行で用意した手形に債務者が署名する融資」で、手形を担保にしているわけではありません。手形貸付と手形担保貸付の区別が無いWEBサイトも見受けられますのでご注意下さい。
手形貸付の性質
手形貸付は、消費貸借債権と手形債権という2つの性質を持っています。
これは手形貸付を語るうえで重要なことです。
消費貸借債権
手形貸付は、振出人を借主(=債務者)、受取人を貸主(=銀行)とする約束手形で契約します。
※振出人(ふりだしにん)等、詳しくは→手形に関連するキーワード 基礎用語集
契約事項である「借りたお金を期日までに返済すること」を金銭消費貸借契約と言い、この金銭消費貸借契約があるので、手形貸付は消費貸借債権です。
同様に証書貸付も消費貸借債権です。貸付証書の正式名称が金銭消費貸借契約証書といいますので、証書貸付こそ消費貸借債権の王道といえるでしょう。
手形債権
貸付用の手形と一般の商取引で使われる約束手形は基本的に同じです。例えば振出人、受取人、支払期日を記入するなど形式上ほぼ同じになっています。
なぜかというと、手形貸付には約束手形と同じ手形債権の性質があるからです。
例えば「建設業者Aが仕事をして、その代金1千万円を発注先Bに請求したところ、3ヵ月後を期日とした約束手形を受取った」というケースで説明します。
手形の振出人(お金を払う義務のある人)はB、受取人(お金をもらう権利のある人)はAになります。このケースで「3ヵ月後の期日までに1千万円を受取る権利」が手形債権です。
これを手形貸付に当てはめ考えると、振出人=債務者、受取人=銀行(債権者)の関係で上記同様「3ヵ月後の期日までに1千万円を受取る(支払う)」手形債権が成立しているという意味になります。
手形貸付を返せないと不渡りになる?
WEBサイトの中には「手形貸付が期日になって返済できないと不渡りになってしまいます。」といった説明もありますが、銀行では手形貸付が不渡りになることはありません。
不渡りとは「受取った手形を取引銀行に持ち込んで現金化を依頼したが、期日になっても入金が無いため資金決済ができなかった」ことを言います。
約束手形を期日まで保有して支払を待つところは手形貸付も同じです。しかし期日に支払いが無かったとしても、銀行は債務者に督促をするだけです。
約束手形と形式は同じなので理論上は不渡りにすることも可能ですが、返済を督促することの方が重要であり、そのような手段に出る銀行はありません。
したがって、期日に支払いできなかったとしても手形貸付で不渡りになることはないのです。この手形債権という性質は手形貸付において非常に重要となりますので、詳しく後述します。
手形貸付の基本項目▶融資期間 金利 返済方法
手形貸付の融資期間
手形貸付は融資期間が1年以内の短期借入で利用されます。
銀行融資では「短期とは1年未満、長期とは1年以上」と定義されています。返済方法も融資期間によって決まります。
短期借入は期限一括返済(返済期限に全額一度に払う)、長期借入は分割返済、証書貸付や住宅ローン(残債型証書貸付)が該当します。
手形貸付は、一度にまとまった資金が短期的に先に必要になるものの売上もまとめて回収できる建設業などが主に利用する資金調達手段になっています。
手形貸付の金利
原則論にはなりますが、金利は融資期間が短いほど低く、長いほど高くなります。ですから一般的には手形貸付のほうが証書貸付より低金利となります。
参考までに、手形貸付では1%~3%前半が主流、証書貸付なら2%~3%後半といったところです。
しかし金利決定要因には様々あり、最終的には顧客と銀行のパワーバランスで決まる要素が強い側面があります。例えばA社の証書貸付5年返済の金利が2.375%、B社の手形貸付6ヵ月返済の金利が3.875%という場合など。
参考までにとしたのはこの理由からです。
ですから手形貸付のほうが低金利と言い切れるものでもありません。
手形貸付の利息支払方法 利息先取りとは?
手形貸付は利息先取り(前取りとも言います)、いっぽう証書貸付は住宅ローンを代表に後取りが一般的です。
例えば手形貸付では1ヵ月毎先取り、つまり1ヵ月分の利息を先に支払います。融資期間6ヵ月なら利息支払も毎月×6回になります。
利息先取りなので、例えば期限の前に手形貸付を返済した場合、支払った利息が返ってきます。これを「戻し利息」と言います。
ちなみに延滞した場合のペナルティは先取り、後取り区別はありません。
「1ヵ月先取りで払わなければならないのに払えない」のも、「1ヵ月分の利息を後払いするお金が無い」のも、ことの重大さに区別はないからです。
手形貸付の返済方法
手形貸付の返済方法は、期限一括返済が主流です。
短期借入だからというのはもちろんですが、もうひとつ理由があり、それは「どうやって返すか」という点からきています。
ではこれを、手形貸付を良く利用する建設業を例に説明しましょう。
工事を請け負って仕事を始めると、材料費や人件費などの費用支払がすぐに必要になります。そのいっぽうで代金は、工事がある程度進まなければもらうことができず、どうしても仕事が終わるまでに資金が必要になってしまいます。
建設業ではこうした支払い先行が発生するので、資金に余裕が無ければ「つなぎ資金」という名目で融資を受ける必要が出てきます。
代金は工事が完成すればまとめてもらえるので、期限一括返済でも問題無く返済できますし、そもそも工事完成までは代金が貰えないので分割返済にはせず、利息だけ支払う期限一括返済が主流になっているのです。
これが、手形貸付が使われる代表的な建設業におけるつなぎ資金の融資ケースです。
また最近では商品用不動産(土地を購入して造成→分譲地として売り出す)の購入資金として不動産関連業者が手形貸付で資金を調達する融資が増えています。
商品用不動産への融資は、銀行としても分譲後の住宅ローンが取り込める可能性もあり積極的に推進しています。ただし、分譲しても土地が売れ残ると融資が焦げ付く危険もあるという諸刃の剣的な面もありますので、融資審査は慎重に行われています。
つなぎ資金と並んで手形貸付にはもうひとつ代表的なケース「短期運転資金の転がし」というものがありますが、こちらについては次の「証書貸付との違い」の中の返済のところで説明します。
手形貸付と証書貸付の違い メリットとデメリットも
手形貸付と証書貸付、両者にはいくつかの違いがあります。その違いはそれぞれのメリット、デメリットとも言えるもので、これから以下の3つについて説明していきます。
手形貸付と証書貸付3つの違い
①金利の基準が違う
②手数料、費用が違う
③返済できなくなった時が違う
①金利の基準が違う
銀行融資は住宅ローンのように固定金利の融資もありますが、多くが変動金利で事業資金融資も変動金利の場合がほとんどです。
また、融資期間が短期か長期かでも金利は異なる訳ですが、銀行の変動金利にはまず指標となる金利(基準金利=プライムレート)があり、長期借入の基準金利は「新長期プライムレート」 短期借入の基準金利は「短期プライムレート」と分類されます。
手形貸付は短期借入なので短期プライムレート、証書貸付は長期借入なので新長期プライムレートが基準となり、その基準金利に債務者の業況などを考慮してプラスマイナスする形で最終的な融資金利を決定します。
②手数料や収入印紙費用
一部の銀行では「融資金額の〇%」を融資取扱手数料としているところもありますが、これは手形貸付と証書貸付で変わるものではありません。
収入印紙費用は、例えば1億円の融資の場合で比べると、手形貸付の収入印紙代は2万円ですが証書貸付では6万円になり、その差は4万円となります。
借入期間1年の場合、手形貸付・証書貸付どちらでも取り扱うことができますが、融資内容など問題無ければ収入印紙代を考慮して可能な限り手形貸付にします。
③返済できなくなった時が違う
手形貸付における短期運転資金の転がし(コロガシ)=通称「短コロ」は、消費者金融などがよく使う隠語であまり良いイメージではありませんが、一方である意味的確な表現でもあります。
「本当は返せないのに、継続・書き換えと言った表現で実質は期限延長している」
これが短コロの意味です。この書き換え・継続にも実は2種類あります。
1つ目は銀行が「返して欲しくないから書き換えてもらっている」場合です。これはお付き合いという意味合いが強いものです。
2つ目が短コロで、こちらが問題となるのです。
証書貸付は融資期間が長いので、期限になって返せないことよりも「毎月の返済が追いつかない」事態のほうが多いので、これはリスケで対応します。
いっぽう手形貸付は毎月利息支払いのみで、返済は期限一括が主流です。契約上は期限に返すことになっているが、運転資金であれば継続するのが当たり前と銀行側も考えて、期日に返済させるという意識が希薄になっています。
ある意味コロガシという言葉の通り「書き換えして当たり前という意識から銀行員も会社の業績変化をチェックせず、機械的に書き換えを繰り返していたら、ある日突然破綻した」というケースも実際によくあります。
証書貸付には無く手形貸付にだけある書き換え・継続という考え方は、実は非常にリスクのあるもので、手形貸付のデメリットと言っても良いでしょう。
また、貸し剥がしという言葉を最近ではあまり聞かなくはなりましたが、銀行都合で急に書き換えしてもらえなくなることもあり得ますので注意が必要です。
手形貸付とは?証書貸付との違い まとめ
実際に返せなくなった時、あるいは万が一貸し剥がしにあったとしたら「良いから借りといて下さいよ!」と過去銀行員から言われたことなど、もはや何の反論にもなりません。
返せるときには多少の無理をしてでも返しておく、これが手形貸付で心がけるべきことだと思います。