運転資金の考え方と種類
運転資金とは?わかりやすく
資金は「運転資金」と「設備資金」に大別
事業を継続させるために必要な資金ですが、
大きく分けると「運転資金」と「設備資金」の二つになります。
運転資金:通常の事業活動を維持していくために必要な資金
設備資金:店舗、事務所、工場や機械など事業を構成する設備のための資金
運転資金不足になると
運転資金が不足すれば事業に支障が出ます。
例えば材料を仕入れる資金がなければ、ものを作ることも売ることもできません。従業員への給料も運転資金ですが、給料が払えなければ誰も働いてくれません。
そして一時的な不足ならまだしも、運転資金が完全に無くなる、つまり資金がショートすれば倒産となってしまいます。
当たり前といえば当たり前ですが、事業には運転資金が必要な訳です。
運転資金を借入期間と資金使途で仕分ける
運転資金にはいくつが種類があるのですが、大きく仕分けると2つになります。
・借入期間で仕分ける
・資金使途で仕分ける(資金の使いみち)
以下それぞれについて説明していきます。
借入期間で仕分ける
銀行は融資資金を借入期間の長さで以下のように仕分けします。
短期資金:借入期間が1年以内の資金
長期資金:借入期間が1年を超える資金
短期運転資金とは?
短期資金は文字通り短期、つまり一時的に必要な資金です。
例えば「春もの衣料を仕入れ→ セールで販売し→ 代金を回収する」というように、短期間だけ資金が必要だが代金も短期間で回収できるような場合に、その所要資金を借り入れるのが短期資金です。
そして、短期間に必要な運転資金のことを短期運転資金と呼びます。
短期運転資金の借入期間は、最短で数日~最長でも1年。手形借入が一般的です。
短期運転資金は短期間で代金回収できるので、期限に一括返済するのが原則です。
ちなみに事例とした春もの衣料仕入などは、季節が限定されていることから「季節資金」とも呼ばれます。
上記のような季節限定ではなく、通常の事業を継続するために必要な運転資金を経常運転資金と呼び、銀行で運転資金といえば基本的には経常運転資金のことを指します。
経常運転資金は文字通り経常的に必要となる資金です。
「経常」を言い換えれば「いつまでもずっと」必要ということで、返済期間は1年以上の長期になります。
経常運転資金として借入し手許にプールしておくのが一般的で、銀行の融資稟議書では「手許資金確保のために本件経常運転資金として融資する」などと表現されます。
長期運転資金とは?
長期にわたり必要な資金、あるいは返済が長期になる資金を長期資金と呼びます。
通常の事業を継続するために必要な資金は、必要な時に必要なだけ借りて売上が回収できたら返済するべきものです。つまり経常運転資金は本来は短期資金であるハズです。
しかし実際の銀行の現場では、経常運転資金は長期資金として対応するのが一般的です。
銀行側の視点で見ると、一度融資したものを回収してまた融資することは事務的な手間が結構かかりますし、また短期資金は金利収入が少なく銀行にとって割に合わないものです。
いっそのこと長期でずっと貸したままにしておけば、手間は省けるし金利も高くできます。したがって銀行では、経常運転資金は長期資金として対応するのです。
経常運転資金に代表される、長期の運転資金を長期運転資金と呼びます。
長期運転資金の借入期間は3年から5年が主流で、10年超の場合もあります。
なお設備資金の場合は、設備内容や規模、本格稼働から利益に貢献できる時期など様々な要因を考慮し、10年から長いものでは20年、30年返済もあります。
※設備資金について詳しく知りたい方はこちら↓
設備資金とは?返済原資と返済期間の考え方をわかりやすく銀行員が解説
長期運転資金、設備資金とも証書借入で分割返済が一般的です。
資金の使い途で仕分ける
運転資金の資金使途
資金の使い途のことを銀行では資金使途といいます。
資金使途はまず運転資金と設備資金に分かれることは先述しましたが、運転資金の中にも多様な資金使途があり、以下代表的なものを簡単に説明します。
資金使途別の運転資金
季節資金:衣料仕入れの他には、お茶、日本酒用の米、鰹節など地域や時期で様々なものがある
決算資金:決算に伴う税金(法人税等)、配当金、役員賞与など
賞与資金:従業員へのボーナス支払
つなぎ資金:市況悪化、親会社からの発注減などから在庫がダブつく=滞貨。同じ理由で生産を減らさなければならなくなった=減産。これらに対応するための一時的に資金をつなぐこと。
先述したように、運転資金といえば代表格が経常運転資金ですので、
経常運転資金については独立した項を設けて後述します。
所要運転資金を理解し把握する
運転資金が必要になる仕組みの理解が経営者には欠かせません。
必要な運転資金(=所要運転資金)を把握してこそ資金繰りができるからです。
もちろん会計ソフトなどで計算はできるでしょうが、基本的な事柄や計算式、用語などは経営者として理解しておくべきです。
運転資金の循環と回転
資金を投入→ 原材料を仕入れ加工・または商品を仕入→ 商品として出荷・販売→ 対価として代金を回収する
これが根本的な商売の基本と資金の流れだとすると、
仕入資金は現金振り込み以外に延べ払い=買掛金や支払手形で充当
代金回収は現金振り込み以外に売掛金や受取手形
となる
支払と受取の時間(サイト)のズレを、手形割引や資金借入あるいはファクタリングで補填して、次の資金として再投入する。
これが運転資金の循環活動です。
このことを財務分析用語では「回転」と呼び、
「1年間に上記循環活動が何回行われるか?」を回転率、
「何ヶ月で回転するのか?」を回転期間、
といいます。
「原材料から商品が販売されるまで」を棚卸資産の回転、
「商品が販売されてから代金を回収しそれが資金化されるまで」を売上債権の回転、
などといいます。
運転資金が必要になる原因
運転資金の回転について上記しましたが、
この中で「資金の投入と回収=つまり支払と受取」には時間的ズレが生じます。
「資金の投入→ 回収→ 再投入」のプロセスにおいて、資金の回収=売上代金回収には時間がかかるものです。
しかしそれを待つということは「再投入=つまり次の仕入を待つ=次の生産ができなくなる」ということで、ここで事業はストップしてしまいます。
手持ち資金に余裕がない限り運転資金は不足し、資金の借入をしなければ事業の回転を止めざるを得なくなります。これが運転資金が必要になる原因です。
経常運転資金の計算式と用語をわかりやすく
経常運転資金の計算式
経常運転資金=売上債権(受取手形+売掛金)+棚卸資産-買入債務(支払手形+買掛金)
受取手形=平均月商×受取手形回収率×受取手形期間①
売掛金 =平均月商×売掛期間②
棚卸資産=平均月商×売上原価率×在庫期間③
小計(A)=①+②+③
支払手形=平均月商×売上原価率×支払手形発行率×支払手形期間④
買掛金 =平均月商×売上原価率×買掛期間⑤
小計(B)=④+⑤
経常運転資金=(A)+(B)
用語かんたん解説
平均月商:決算後間もないなら前期決算の平均月商(年商÷12)
決算後半年以上なら、直近3~6ヶ月の平均月商
受取手形回収率:売上のうち手形で受け取る割合(%で表示)
受取手形期間:受取手形の平均期間(支払期日までの日数=サイト)
売掛期間:売掛金が入金されるまでの平均期間
売上原価率:売上に対する売上原価(仕入、製造原価)の比率(%)
在庫期間:仕入れてから在庫がどのくらいで販売できているか
下記計算式で算出
在庫(棚卸資産)
売上原価÷12
支払手形発行率:支払のうち支払手形(支手)にした割合(%)
支払手形期間:支払手形の平均期間(支払期日までの日数=サイト)
買掛期間:買掛金を支払う期日までの平均期間
経常運転資金の性質
経常運転資金は支払と受取の時間的ズレから必要になると説明しました。
- 支払条件の悪化=支払手形の期間が短くなる→ 運転資金が必要
- 受取条件の悪化=売掛期間が長くなる→ 運転資金が必要
- 支払条件の良化、受取条件の良化は上記と逆の状態→ 運転資金は不要
これが経常運転資金の基本的性質です。
これらは単なる言葉ではなく、現実の経営問題としてよくあることです。
その言葉の意味と影響・結果をぜひ覚えて経営に活用なさってください。
必要な運転資金の把握が必須
なにも計算式を丸暗記する必要はありません。大事なのは、経営者として運転資金が必要になる仕組みを理解し、金額を把握することです。
現実は数式通りものごとが動くわけではないことは、経営者のあなたの方がよくご存知かと思います。
しかし、基本的なことが頭に入っていれば、銀行に経常運転資金をいくら申し込むことができるのか把握できます。
それは数字で導き出された所要運転資金なのです。
上述したように銀行員はその答えを知っていますが、その答えはコンピュータから教えてもらったものです。
そこであなた自身で計算をして、その結果を銀行員に披露してはいかがでしょうか?
コンピュータが出した数字は、決算書だけのいわば机上の空論かも知れません。
現場にいるあなたの出した答えが、多少細部で違っていたとしても、ここは胸を張って「私が出したものが現実です!」と答えれば良いのです。
「この社長は資金繰りができる!侮れない」銀行員にそう思わせることができれば、銀行員があなたを見る目は必ず良い方に変わるはずです。
※実際の運転資金借入の審査の理解は下記の特集ページで↓
運転資金借入の銀行融資!金利相場 借入期間 借入理由 審査内容と必要書類